リスティング広告(検索連動型広告)は多くの企業にとって最も広告効果(主に販促)の高い広告手法として、広く利用されています。運用型広告の代表的な手法としても知られ、多くの場合、運用を担当する広告代理店もその運用方法の最適化のため、各社試行錯誤を行ってきました。リスティング広告の手法が登場して約15年、近年では運用もツールの利用や、メソッドの可視化等により高度化・複雑化してます。
筆者は「リスティング広告」というものが存在しない時代からweb広告に関わっており、その頃から考えると大きな変化に驚いています。ただ、その頃から変わらないのはクライアント企業が運用代理店を選定する難しさであると思う。
企業の広告展開の中でも特に重要なだけに、絶対に失敗したくないという企業は多いが、最近は運用方法も確立されてきており、代理店目線では提案段階では違いの出しづらい広告手法となっている。それ故、選ぶ側のクライアント企業も選定する際には苦労をするという話をよく耳にする。
本稿では代理店に所属する筆者が、代理店を選ぶポイントについて説明する。
目次
【リスティング広告】代理店を選ぶ際の大前提
―自社に合った代理店を見極めよう―
Yahoo!やGoogleによる審査を経て、公式に認定された広告会社・代理店に声をかけるというやり方がある。
■Yahoo!マーケティングソリューション パートナー
http://promotionalads.yahoo.co.jp/service/agency/star.html?mkt=jp
■Google Partner バッジ保有代理店
https://www.google.com/partners/
※「正規代理店」というのはメディア(リスティングにおいてはYahoo!やGoogle)が認めている代理店という意味合い。正規代理店になるためには各メディアが設けた「売上」や「体制」を一定以上満たしている必要がある。クライアント側の視点でみると、この中から選ぶことにより、ある一定の運用実績や運用体制を担保されるものとなり、極端な失敗をしにくいという見方ができる。
正規代理店から選ぶというやり方は間違いではなく、何も情報がない中では固い選択ではあると思う。
ただ、「大手」「正規」であれば良いかというと必ずしもそうではなく、考慮しなければいけないのは「代理店から見た際の自社の魅力(=予算規模)」を冷静に鑑みること。
リスティング広告は代理店にとっても売り上げの主力となる広告手法ではあるが、同時に非常に手間(負荷)がかかる。リスティング広告運用のためのリソース確保やメソッド確立は、どの代理店にもある問題である。
各代理店ごとに売上構成は様々。同じ売上でも大手数社の売上で全体のほとんどを占めている企業もあれば、細かいアカウントを積み上げてその売上を挙げている企業もある。弊社でも1人の営業が数十のアカウントを管理しているケースもある。
それ故に運用する側の代理店としても、クライアント企業ごとに力の入れ具合を変えなければいけない。超大手や予算が極端に少ない企業はともかく、数の最も多いであろう中小規模の企業では、代理店の中での自社の位置により、その後の運用や担当する営業の質が大きく変わる。
このような代理店側の現状を前提とした場合、依頼しようとしているこの自社の案件はどのような代理店にとって魅力的で、どのような代理店にとっては魅力的でないのか?を考える必要がある。
※「魅力的」というのは端的にいうと「広告予算額」「得意・不得意」のことである。
では、どうすればその代理店での自社の位置を知ることができるのか?それを知るための質問は簡単。
「御社では弊社の予算規模のような案件は、どの程度の数がありますか?」
と聞けばいい。
ストレートに答えてくれないケースもあるが、そこはニュアンスで大体は想像できるだろう。
そこでの返答が「数社程度」であれば恐らく予算規模としては代理店側から見た場合、魅力的である。この社数が多ければ多いほど、代理店側から見た自社の魅力は低くなっていき、その他大勢なポジションであると理解できる。
また、予算が大きいことはどの代理店に取っても魅力的だが、「得意・不得意」というのも代理店・クライアント双方にとって、大事なポイントである。「得意・不得意」というのは端的に言うと、同業種での社内成功実績が豊富かどうか。
海外では1代理店1業種のような形を取っているところもあるが、日本では1代理店が同業種の複数の企業を担当することが多い。その業種の大手を担当していれば、すでに様々な広告手法を試しているはずだ。その実績の細かい数値は社内でも共有はしないものの、メソッドは社内資産として共有されていることが多い。
つまり、同業種の大手担当実績があればクライアント・代理店双方にとって無駄な試行錯誤が減ることになり、代理店としても効果を返せる確率が高まるため、魅力的な案件となる。
上記を明らかにするために私なら、クライアントとして代理店の選定をする際には、まず自社に合った代理店なのかを判断するためにミーティングした際に下の二つの質問をする。
①「御社では弊社の予算規模のような案件は、どの程度の数がありますか?」
②「同業種の成功実績はありますか?」
【リスティング広告】代理店選び 5つのポイント
大枠で自社に合った代理店を絞り込んだ後は、具体的に提案をしてもらうことになる。この際には少なくとも2社以上からは提案をもらうべきである。(そうしないと比較対象がないため)
※提案の依頼の仕方もクライアント企業としてはとても大事な要素だが、これは後述する。
自社の課題に対して納得のいく提案があることは前提だが、それ以外のポイントで気を付けるべきポイントを紹介する。
■Check 5ポイント
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①営業担当者は信用できるか?
②同規模や同業種での運用実績があるか?
③その担当はリソースをどの程度自社に用意してくれるか?
④拡大のプランを持っているか?
⑤定期的な提案をもらえるか?(特に旬なものについて)
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①営業担当者は信用できるか?
依頼する代理店がいかに会社としての資産が多くとも、窓口である担当営業がそれを活かせなければ、何の意味もない。また、運用代理店を変えることはクライアント・代理店双方に大きな負荷をもたらす。同じ代理店で長く満足いくプロモーションが行えるのであればそれに越したことはない。そのために大事なのは担当営業との相性。
提案の際にはしっかりとした上司が付いてくるかもしれないが、あくまで日々やり取りするのは担当営業。
これは個人の感覚に100%頼っていい。自分(担当)がしっくりくればそれでいいのだ。
②同規模や同業種での運用実績があるか?
効果を「早期に」出していくために、「同規模・同業種の成功実績」を持つ担当が望ましい。同業種の実績は聞く人も多いが、予算規模により施策の幅はかなり変わる。同業実績だけでなく、どの程度の予算規模・目標のクライアント運用実績があるかを確認することは重要。
③その担当はリソースをどの程度自社に用意してくれるか?
優秀な担当は売れっ子。よほどの規模の案件でなければ、張り付きでの運用は望めない。どの程度集中してみてくれる環境なのかも確認しておくと安心だ。
①~③までが「効果を長期安定させる」ために必要なことで、自社が代理店にとって魅力的であればあるほど、①~③の項目でよい条件を引き出せる可能性が高くなる。
④拡大のプランを持っているか?
運用のやり方として、最初は広く配信をし、徐々に配信を絞っていくことにより、効果を安定させていくやり方が一般的である。
この際に最も簡単に効果を良くするやり方は「効果の悪いキャンペーン(メディア)の配信を止める」こと。ただし、これを続けていくと当然ながら配信量は縮小し、最終的には気付いたら指名キーワードしか残っていなかったというケースもある。
そうなるとクライアント企業にとってはビジネスの拡大が難しく、代理店にとって利益があがらず、双方にとってメリットがなくなる。
配信を絞っていくことは運用上必要なことだが、そこで浮いた分を拡大に回すサイクルが必要。付き合う代理店には提案をもらう段階から「拡大のプランがあるか?」を確認したい。
⑤定期的な提案をもらえるか?(特に旬なものについて)
リスティング広告はやろうと思えば様々な施策を実施できる。それなりの予算をかけて実施している企業では様々な施策を実施しており、代理店側としてはその結果のレポーティング(報告)は大きな仕事の一つである。それは時に20P~30Pに及ぶような資料にもなり、それだけで定例会の時間を使い切ってしまうケースが多い。
そのような状況になるとリスティング広告以外のweb広告手法についてコミュニケーションする機会がなくなり(少なくなり)、どうしても後追いのプロモーションとなってしまう。
リスティング広告は非常に優れた広告手法だが、webの業界では新しい手法(メニュー)が日々生まれている。
リスティング広告を担当している代理店はその広告としての重要性から、そのクライアントのメイン代理店だといえる。そんな代理店にはリスティング広告のみに留まらず、定期的に旬な広告手法について提案をもらえるスキームを組んでおきたい(通常定例会とは別に提案をもらうミーティングを持つ等)。
リスティング広告の運用代理店選びは、なかなか難しいが、提案内容以外に、上の5つのポイントを押さえておけば、失敗するリスクが低くなるのではないかと今までの経験から感じている。
最後に代理店と付き合っていくにあたって、代理店側がクライアントに対して困った事例を紹介したい。
【リスティング広告】代理店との関係を円滑にすすめるための方法
課題を明確にして依頼をかける
依頼の中で課題点がはっきりしていないと、戻ってくる提案も具体性に欠けるものとなりがちだ。基本的に自社の課題を最も把握できているのはクライアント担当者である。その部分はしっかりしたい。
(できる限り)積極的な情報開示
提案の際に代理店に任せた場合の効果シミュレーションを求められることが多い。より精緻なシミュレーションを出すためには基となる数字の情報が必要である。依頼をもらった際にはこちらにその数字がないケースが多いため、クライアント企業からその基となる数字の提示をしてほしい。
それが一切ない場合のシミュレーションは数字遊びにしかならないと、個人的には感じているため、そのシミュレーションを基にしての代理店選びは危険である。
【値引き率】を最重要項目にしない
最近は代理店でも売り上げよりも利益を重視する傾向が強まってきている。いかに予算が大きくとも、値引きで利益が少ない場合は、単価の高いエースクラスの営業担当・運用担当を長く付けることは難しくなる。
限られた広告予算の中で効果を出すにあたり、「値引き」というのは実に魅力的に映るが、その分自社に対するリソースが減らされてしまう懸念もある。
「急な依頼」を「通常」にしない
社内での急なレポート提出の必要が出てきた等で、急ぎの依頼をいただくことも多い。もちろん、基本的には対応しているケースがほとんどだが、「本日中」「明日の朝まで」等の急ぎの依頼が通常になっているケースも散見される。
最大限対応するものの、短納期での仕事はミスが出やすいし、本質的な提案に手が回らなくなることにもなりかねない。なるべく余裕を持った依頼をしたいものである。
短いスパンで一喜一憂しない
1日~2日程度の結果を基に説明を求められるケースがある。入札制・ネットワーク系のメディアでは短い期間では効果が安定しない。あまりに短いスパンでの効果判断や要因分析は大事な部分を見落とすことにつながる可能性もある。
以上1~5はあくまで個人的な考えではあるものの、リスティング広告が始まった時期から今までの中で多くの企業様のプロモーションを見てきた上で、1~5のようなことを実施(留意)している企業のプロモーションはそうでない企業に比べうまくいっている確率が高いと感じる。
リスティング広告はクライアント企業・代理店双方にとって大事な施策。ミスマッチをなくして、長い関係が築ける一助になればと思う。