Safariブラウザに搭載された「Intelligent Tracking Prevention(ITP)」が広告業界に与えた影響と各社の対策状況

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皆様は2017年9月にAppleが、Safariのバージョン11.0以降のブラウザにIntelligent Tracking Prevention(以下、ITP)と呼ばれる「トラッキング防止機能」を実装したことについては、ご存知でしょうか?本記事は、このITPが「どのような機能」で「どのような影響があるか」を紐解くと同時に、各メディアの対応状況を解説していきます。

SafariブラウザのITP(Intelligent Tracking Prevention)とは

ITPは、2017年6月にAppleが開発者向けイベント『WWDC 2017 Keynote』で発表した、サードパーティCookieを対象に作用するSafari 11.0 以降のブラウザに搭載されたトラッキング防止機能で、Webサイトを越えてユーザが追跡されることを防ぎます。

出典:Apple Special Event. June 5, 2017.

ITPは、複数のWebサイトをまたがってユーザを追いかける広告(リターゲティング広告)などに対して、Cookieの有効期限を極端に短くすることで広告の追跡を阻止するという機能を持ち、クロスサイトトラッキングを防ぐことでSafariユーザのプライバシーを守るのが本来の目的です。

具体的なメカニズムはWebkitの記事に記載されていますが、Safariに搭載されたインテリジェントトラッキング防止機能は、「リソース負荷、タップ、クリック、テキスト入力などのユーザのやりとり」に関する統計情報を収集し、非公開で管理されたトップレベルのグループに分類します。

さらに、機械学習を用いてユーザの追跡目的と分類されたサードパーティCookieを特定して、ユーザが最後に起こしたクリックなどのインタラクションから24時間以内にそのドメインに再度アクセスしなければ、Cookie情報が参照できなくなり訪問ユーザの外部サイトでの行動が追跡できなくなります。一方、ログイン情報などのCookie情報については30日間はそのまま残るため、ユーザ側の使い勝手は変わらずプライバシーのみ保護されるということになります。

ITP概要

参考:Intelligent Tracking Prevention – WebKit

この機能は2017年9月にリリースされたSafari 11.0(iOS版Safari)から標準で搭載されており、2018年1月現在、すでにCookie情報をもとにした広告配信や効果計測ツールに影響が出ているようです。

ITP(Intelligent Tracking Prevention)が広告に与える影響

AppleがCookieのポリシー変更を発表したことで、リターゲティング広告を主軸に活躍するアドテク企業でもある『Criteo』の株価が暴落するなどマーケットの反応は極めて早く、今後のネット広告への影響を重く捉えたようです。また、オンライン広告における技術的標準規格の法整備などを行う、米国を中心とした広告業界の団体からなる組織「IAB(Interactive Advertising Bureau)」は、“今回のAppleの一方的で強引なやり方は透明性を欠き恣意的”と批判しており正式に公開書簡を発表しています。

ITPが影響を与えるポイントは「広告配信」「広告効果計測」「サイト分析」の大きく3つに分けられます。
サードパーティCookieを使用したユーザリストが24時間で参照できなくなることで、リターゲティング広告の配信量が減少してCV数の低下につながったり、リストの質の劣化にともなって効率の低下につながるなどが考えられます。また、サイトを訪問してから24時間以上経過したユーザは、再訪したとしても別ユーザとして認識されるため、どのタッチポイントが獲得に貢献しているかを正確に評価できなくなり、サイト訪問者の正確な分析が困難になることが予想されます。

弊社の社内事例では、90日以上Cookieを保持するリストを対象に調査を実施したところ、5社中3社でリスト数の減少が見られました。
さまざまな外部要因はあるものの、特にスマートフォンへの影響が大きい傾向にあり、iOS11ユーザの流入割合の多いサイトではリターゲティングリスト数の低下が顕著にみられました。

 Safariのブラウザ市場シェアとITP(Intelligent Tracking Prevention)の影響範囲

StatCounterのデータを見ると、2017年12月現在のSafariのデスクトップブラウザ国内市場シェアは7.21%で、GoogleChromeやIEと比較するとITPの影響は低いといえるでしょう。

Desktop Browser Market Share Japan(Nov 2016 – Nov 2017) Safari シェア率

一方、モバイルブラウザの国内市場シェアを見てみると、65.25%とSafariの利用割合が高く、iPhoneの普及率が高い日本ではITPの影響は大きいと考えられます。

Mobile Browser Market Share Japan(Nov 2016 – Nov 2017)

 Safari シェア率(モバイル)

また、Appleが開発者向けのサポートページで明らかにした公式発表によると、2017年11月6日時点における「iOS 11」のシェア率は52%を超えています。9月のリリースからわずか2か月で市場シェアの52%はかなり印象的ですが、全体的にはiPhoneユーザの約半分以上がITPの適用対象となっていることがわかります。

iOS 11 シェアITP(Intelligent Tracking Prevention)への対応(メディアまとめ)

続いて「ITP」への各社対応を見ていきましょう。

◆Google

広告媒体では「Google」がいち早く対応を発表しています。Google Adwordsヘルプページには、ITP機能が有効になっているSafariブラウザでも広告クリックの情報を失わずコンバージョンを正確にトラッキングする方法として次の3つの方法を推奨しています。(2018年1月31日現在)

  • 方法1: 新しい Google Adwords コンバージョン トラッキング タグを使用してコンバージョンをトラッキングする 
  • 方法2: Google アナリティクスを使用する 
  • 方法3: Google タグマネージャを使用して、新しいコンバージョン リンカータグを追加する

参考:コンバージョン リンカー – Googleタグマネージャ ヘルプ – Google Support

参考:Google AdWordsでウェブサイト コンバージョンを計測する仕組み

いずれも、サイト全体を網羅するタグを実装して、ドメインに新しいファーストパーティCookieが設定されるようになっており、サイトへユーザを誘導した広告クリックに関する情報が保存される仕組みになっています。

◆アドエビス

広告効果計測では、株式会社ロックオンが提供するツール「AD EBiS」が、ITPに対応した新タグの提供を開始しています。ITPへの対応方法はGoogleと同じく、サードパーティCookieでサポートできない部分をファーストパーティCookieを使って補う方法を取っています。(2018年1月31日現在)

参考:【重要】ITPの対応について ※9/25 11:20更新 | AD EBiS サポートサイト

参考:2017年11月15日 新タグご提供のお知らせ – トラッキング防止機能(ITP)対応 –

◆Googleアナリティクス/ Adobe アナリティクス

Webサイト分析ツールの「Googleアナリティクス」や「Adobe Analytics」は元々、ファーストパーティCookieを利用しているため対応は不要となります。

その他、広告効果測定ツールの「Webアンテナ」や広告配信ツールの「ScaleOut DSP」など続々と最新版SafariのITPに対応した新方式を発表しています。Yahoo!JAPANやSNSメディア各社からの明確な対処方法のロードマップについては、まだ示されておらず、今後のアップデートが期待されます。(2018年1月31日現在)

参考:WebアンテナはSafariブラウザのInteligent Tracking Prevention (ITP)に対応しました

参考:Supershipの「ScaleOut DSP」、 最新Safariブラウザのトラッキング防止機能(ITP)に対応

 2018年はユーザ体験こそがマーケティング戦略の主流になる

今後のブラウザの生き残り戦略としてユーザエクスペリエンスの向上が最も重要な課題となっており、ブラウザ側はユーザが損失を被ったりユーザ体験を著しく損なう広告を規制していく方向に向かっています。 少し話題は外れますが、不快な広告を制限するという点で共通する話題としてGoogleが「Google Chrome」に標準でアドブロッカー(広告ブロック)機能を実装することを2017年に公表しており、2018年2月15日から有効化されることを正式に発表しています。

参考:An update on Better Ads | Web | Google Developers

対象となる広告は「ユーザエクスペリエンスを損なうと判断された一部の広告」。Googleのアドネットワークから配信されている「Google Adsense」などの広告だとしても例外ではなく、悪質な表示方法だと判断される場合は非表示にされてしまうことが案内されています。悪質性のある広告の判断基準はGoogleが会員になっている業界団体「Coalition for Better Ads」のWebサイト上で公開されている「The Initial Better Ads Standards」という基準に沿うものになっています。

参考:The Initial Better Ads Standards – Coalition for Better Ads

最後に

今回のITP機能追加により、リターゲティング広告の配信量の減少にともなうCV数の低下や、リストの質の低下による獲得効率の悪化が考えられるため、従来の「リターゲティング広告」を補う新たな施策を考える必要がありそうです。

また、サイト訪問者の行動が複雑化する一方、購買に至るプロセスの中の複数の広告クリックがどのようにコンバージョンに貢献したかの要因を調べることが、これまで以上に難しくなるため、広告運用者の立場としては非常に頭の痛い問題ではあります。ただし、あくまでもITPは広告表示機会の抑制ではなく、Safariユーザーユーザのプライバシーを守るというのが本来の目的です。

消費者の立場もこれまで以上に考慮しながら、適切なタイミングで広告を提供できているか、今一度見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

 

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