Webサイトのリニューアルを行うにあたっての事前調査の手法は数々ありますが、その中の一つで欠かせないのがヒューリスティック分析です。これは、ユーザビリティ(使いやすさ)評価の手法の一つで、ユーザビリティの専門家が既知の経験則からWebのインターフェイスを評価し、サイトの課題を抽出する際に活用されています。
原則、このヒューリスティック分析は専門家が行うものですが、ある程度のポイントさえ押さえれば、簡易的な調査を自前で行うことも可能です。これを自前で行えるようになれば、予算や時間が限られている時にWebの提案や社内稟議の書類作り、更には簡易改修点の抽出など幅広くご活用いただけます。本稿では、このヒューリスティック分析を行う際のポイントを紹介します。
目次
ヒューリスティック分析とは?
ヒューリスティック分析は、分析者の経験則で行う主観的な分析方法です。
被験者を必要とせず、分析者の作業のみで完結することから、労力さえ厭わなければ、自社のみならず競合との比較も含めて、幅広い相対的な評価をつけることができます。そのため、競合比で課題を抽出しやすいので、サイト課題の仮説を立てるのに適した手法といえます。
一方で、ヒューリスティック分析は、分析者の経験値や思い込みなどに左右されることが多々あり、他の分析手法と比べ、時に正確性を欠いてしまう場合もあります。ですので、ターゲットに近い被験者を集めて行うユーザー調査と組み合わせて課題の仮説を抽出したり、そこから得られた仮説が本当に正しいか、アクセス解析データなどで裏付ける分析を行うことにより、仮説を検証することが「本来であれば」望ましいです。
とはいえ、これらの組み合わせは予算規模や、提出期限によっては難しいこともあるので、ヒューリスティック分析を単体で使うには、下記を参考に精度や質を高める工夫が必要になってきます。
ヒューリスティック分析の精度を高めるポイント1「調査前提を決定」
まず、ヒューリスティック分析を行う前に、5つの「調査前提」を決めましょう。
これは、サイトの位置付けを明確にし、評価軸を決めるための基準となります。
1)サイトの目的の設定
サイトの目的とは「そのサイトで得たい成果」になります。
購入、会員登録、資料請求求人応募、パートナー応募、ブランド理解、共感醸成など、サイトで得たい成果のメインとサブを設定しましょう。その際に、目的を複数設定しすぎると、サイトの位置付けが曖昧となり、「二兎追う者は一兎えず」になってしまいがちなので注意が必要です。
2)ターゲットの設定
サイトに訪問する閲覧者の属性を設定します。
性別、年代、趣味嗜好、年収、家族構成、職業など、どの層を主な対象にしているのかを絞り込みます。
より詳細なターゲットイメージ(ペルソナ)を設定したほうが、良し悪しの判断基準がより具体化しやすくなります。たとえば、「20代~50代男女」など、幅広いターゲット層を設定してしまうと、「23歳女性」と「39歳男性」では嗜好が大きく異なる為、サイトの特色を出すことができず、イメージが薄れてしまいます。
ですので、「25歳派遣社員の女性、年収250万円」などと具体的にターゲットを設定しましょう。
3)競合の設定
自社サイトと競合すると考えられる競合サイトを設定します。
製品・サービス上の競合を中心に3件~5件程度抽出します。
その際、抽出するサイトは現行の自社サイトよりもパッと見優れていると思われるようなデザイン性を持っていたり、ビジネス上で成功を収めている競合を設定すると、「見習うべき課題」を抽出しやすくなるので、複数サイトを斜め読みした上で、検証対象を絞り込む必要があります。ここで注意すべきは、上の1)~2)の目的が同一の競合でないと、あまり効果が無いということです。例えば、「人材紹介会社」という大きなカテゴリで競合していたとしても、自社のターゲットは事務系の女性社員、競合相手がエグゼクティブの場合、訴求する内容が全く異なる為、同軸で比較することが難しくなります。
4)端末の設定
自社サイトがPCだけでなくスマートフォンなど多端末対応をしている場合、調査の範囲をスマートフォンサイトまで広げるかどうかを決定します。スマートフォンでの調査は、PCと比べて時間が掛かるケースが多いため、確保できるリソース次第では、とりあえずはPCサイトに限定して調査を行い、結果次第で調査範囲を広げることも検討しましょう。
5)調査対象ページの設定
調査対象のページは、増えれば増えるほど資料をまとめる時間が掛かるため、精査が必要です。
ヒューリスティック分析の精度を高めるポイント2「評価軸の設定」
次に、自社サイトと競合サイトを比較するための評価軸を設定します。
一般的に、ヒューリスティック分析を行う基準としては、米国の工学博士ヤコブ・ニールセンが策定した「ニールセンのユーザビリティ10原則」が有名ですが、この指標ではユーザビリティでの側面でしかサイトを評価できません。ここでは設定基準がズレるので、おすすめしていません。
例えば、申込フォームで「ニールセンのユーザビリティ10原則『3.ユーザーにコントロールの主導権と自由度を与える』」を実現すると、途中離脱の要因となるバックボタンや、サイト内リンクの設置を行った方が良いという結果となるためです。
「ニールセンのユーザビリティ10原則」(参考)
1.システム状態の視認性を高める
2.実環境に合ったシステムを構築する
3.ユーザーにコントロールの主導権と自由度を与える
4.一貫性と標準化を保持する
5.エラーの発生を事前に防止する
6.記憶しなくても、見ればわかるようなデザインを行う
7.柔軟性と効率性を持たせる
8.最小限で美しいデザインを施す
9.ユーザーによるエラー認識、診断、回復をサポートする
10.ヘルプとマニュアルを用意する
サイトにより、目的や特色が異なるので、「2.ヒューリスティック分析の精度を高めるポイント1「調査前提を決定」」で決めた調査前提に基づき評価軸を決めるほうが、より実態に即したヒューリスティック分析を行うことができます。
では、評価軸はどのように決めるべきでしょうか。
一般的なサイトでの基本項目としては下の1)~3)となるので、前述の調査前提に合わせてカスタマイズして設定することをおすすめします。その際、あまり多くの項目を調査対象とすると、目的達成のために必要でない項目まで評価対象となってしまうので、注意が必要です。また、SEOなどはある程度専門性がないと判断がつきにくい部分もあるので、社内のリソースで判断がつく項目に絞ることも一考です。
1)ブランド訴求
‐優位性/特色の訴求・・・競合との違いや優位性を数字や実例で端的に表現できているか。
‐デザイン性・・・デザインのトーン&マナーは統一されているか。デザインにメリハリはあるか。配色は伝えたいイメージを体現しているか。色数を多く使い過ぎていないか。など。
‐見やすさ・・・見出しが短文で解りやすい、余白、アイコンの有無、図表の適切な挿入など。
‐理解・共感の獲得・・・ターゲット目線でコンテンツが制作されているか。興味関心を引く要素を設けているか。信頼を醸成するための文章を適切に配置しているか。第三者の評価(ユーザーの声など)が設置されているか。
2)目的誘導
‐ナビゲーション・・・グローバルナビやサイドメニューの項目は端的で解りやすいか。各メニューの項目数は7個以下で把握しやすいか。第2階層に直接誘導する導線は設定されているか。など。
‐成果ページへの誘導・・・各ページ下部にコンバージョンさせるためのボタンは設置されているか。コンバージョンさせるための動機づけは適切か。コンバージョンボタンは適切に配置されているか。
‐フォーム/カート設計・・・EFOを導入しているか。取得項目は極力少なくしているか。離脱につながるリンクは削除しているか。
‐検索性・・・商品や情報を検索する複数の手法が用意されているか、そのナビゲーションは使いやすいか。
3)集客寄与
‐SEO・・・キーワード設定は適切か。メタタグは設定されているか。h1タグは適切か。サイト内相互リンクを張っているか。
‐集客コンテンツ・・・集客に寄与するコンテンツを設けているか。被リンクを獲得する仕組みを設けているか、ニュースサイトに引用される要素を設けているかなど。
-SNS連携・・・ソーシャルボタンは設置されているか。SNSで拡散する仕組みは設けているかなど。
ヒューリスティック分析の精度を高めるポイント3「レビュー」
評価軸を決定したら、実際に各調査対象のサイトを見ながら、分析をしましょう。
レビューは、Webに対する知見がある人を含んだ、5人以下の複数人で見ることがおすすめです。
人数が多くなり過ぎると、対立する意見が多くなり収拾がつかなくなるなどの弊害が出てくるためです。
また、レビューをする際には、プロジェクターやモニターに対象となるサイトを映し出しながら、サイトの良い点・悪い点の意見を出し合います。その際、矛盾する指摘(グローバルナビが見難い、見やすいなど)があった場合、レビュー中にどちらを採用するかは判断しません。最終的に、資料をまとめる人が、事前に決めた評価軸に基づき、主観的にどちらの意見が正しいか判断します。
競合サイトを含めて調査対象のページ数が多くなる場合は、トップページ、商品詳細ページ、申込フォーム、カートなど、目的達成に影響度が大きいページを優先して、ページを抽出しレビューを行います。
ヒューリスティック分析の精度を高めるポイント4「資料への反映」
資料のまとめかたはいくつかありますが、全体傾向と個別ページの課題の抽出を行う際のフォーマットをご紹介します。
1)調査概要
2) ページ詳細分析
自社サイトの個別ページのメリットとデメリットを記載します。比較ではなく、課題の抽出のみに特化する場合は、デメリットのみの記載に留めます。
3)競合ページ
競合サイトについては、トップページと特徴的なページを抽出して分析します。
自社サイトの各評価軸別のポイント抽出と、相対評価でつけた〇×△での各社比較、総論などで構成します。
まとめ
冒頭でも触れましたが、ヒューリスティック分析は本来専門家が経験則で行うためのものなので、慣れない間は完全にはできない場合もあるかと思います。その際は、評価対象や項目を絞るなどの工夫で、簡易的なレポートを仕上げることも可能です。また、ヒューリスティック分析で抽出した課題の裏付けを取るには、ユーザー調査やアクセス解析などが有効です。
特に、実際のターゲット属性の被験者を集めて行うユーザー調査は、潜在化しているニーズを発見するのに適しています。ヒューリスティック分析と組み合わせることにより、より確かな課題抽出を行うことができますので、予算が合うようであれば、それらのサービスを取り扱う専門会社への依頼も検討しましょう。