ECでよくある落とし穴。あなたが失敗しないために大事なこと。

EC(Electronic Commerce)の市場はここ数年、毎年年々10%程度のペースで伸び続け、経済産業省の2014年調査データによると狭義のBtoC EC市場規模は約13兆円、EC化率(総支出に占めるECでの支出の割合)は4%を超えています。こうした市場の拡大を見て、「我が社もECだ!」と新規事業としてECに取り組まれる企業も非常に増えています。そんな時に陥るECの落とし穴があることをご存知でしょうか?今回は実際に私たちが見てきた失敗例を紹介し、皆さんが同じ間違いを犯さないためのお手伝いをさせていただきます。特にビジネスとして、業務としての観点でポイントを紹介します。

第1章 ECとは店舗である

EC(Electronic Commerce)、日本語では「電子商取引」と言われます。企業がネット上にバーチャル店舗=ECサイトを立ち上げ、そこで商品の販売を行うことを指します。お客様との接点はWebです。「Web」であること。これが落とし穴に陥る大きな要因なのです。

ECサイトは単なるWebサイトではありません。いわば「店舗」です。会社によっては、例えば大手アパレルメーカでも、一番売上の大きな店舗は路面の旗艦店でも大型ショッピングモールの店舗でもなく、ブランドのECサイトということも珍しくなくなってきました。

しかし、初めてECに取り組む企業では、EC(Web)サイトさえ作れば売れようになると軽く考えてビジネスを始めようとするケースが多々見受けられます。いくらWebとはいえ、ECサイト=店舗であるという認識が薄いとあとで非常に大きな失敗につながります。店舗だからこそ、店舗運営の観点でECを捉える必要があるのです。

第2章 よくあるEC失敗例あれこれ

 

実際に私が聞いたEC失敗例をいくつか紹介します。

【支払方法に関する落とし穴】

・代金後払い方式の失敗例

商品注文が入りました。支払方法は代金後払い。さっそく倉庫へ注文データを回し、梱包用段ボールに商品と振込用紙を入れて出荷します。しかし、商品到着後、何日たっても入金がありません。督促の電話をしてもなかなかユーザーが捕まらず、結局数千円の回収をするまでに2か月以上。その間、担当者は毎日のようにお客様に電話やメールでの督促業務を強いられることに。つらい・・・

⇒代金後払いの回収リスクを防ぐためには、代金後払いの請求を代行してくれるサービスがあります。手数料は少々高くても、業務効率を考えるとその利用を検討したほうがいいでしょう。

 

・定期販売商品のクレジットカード払いでの失敗例

健康食品や化粧品でよくある定期販売。お客様は毎月注文する手間も省けるし、販売する側は毎月一定の売上が見込める、買い手、売り手お互いにメリットのある販売方法です。今月の出荷分をチェックしていると、あるお客様の注文に関して決済できないというエラーが発生。よくよく調べてみると、そのお客様のクレジットカードの利用期限が切れて、カードが更新されているらしい。お客様に改めて新しいクレジットカードで購入しなおしてくださいと案内を送ったところ、面倒くさいので定期解約するとのこと。今まで毎月買っていただいた大切なお客様だったのに・・・

⇒クレジット決済代行サービスの中には、「洗い替え」という有効期限切れによる更新情報を元に新しいカードで自動的に決済してくれるサービスがあります。利用を検討してはどうでしょうか?

 

【配送にまつわる落とし穴】

・食品ECサイトの失敗例

販売している商品に「常温配送」「要冷蔵配送」「要冷凍配送」という、温度管理の異なる商品を取り扱っていました。5000円以上購入すると送料が無料になります。あるとき、これらを1人のお客様が同時注文しました。合計は確かに5000円を超えているんですが、3種類の温度管理をしなければいけませんので、当然ながら配送も「常温車」「要冷蔵車」「要冷凍車」が必要です。あれぇ・・・、送料無料にしたけど、本当によかったっけ?

⇒売り物と受け渡し方法をよく考えて、場合によってはECカートシステムの大幅なカスタマイズが必要になることも視野に開発費と、配送費や出荷時の手間のバランスを考えましょう。

 

・家具ECサイトの失敗例

ソファーセットの注文が入りました。今度は在庫もバッチリ。さっそく配送へ。運送業者がお届けに伺うとそこは古いマンション。5階建てエレベータなし。階段も非常に狭く、途中で何度も曲がっている。どう考えても大型ソファーが通れるスペースがない!しかも注文いただいたのは最上階のお客様。結局お客様にお詫びし、日程を改めて納品。クレーンで吊ってベランダから。ベランダ側にクレーン車を止めるスペースが無かったら、きっともっと恐ろしいことに・・・

⇒これも売り物と受け渡し方法に関するものですね。配送費を別途見積りにする、お客様に配送先の詳細情報を教えてもらうための工夫をするなど、検討が必要です。

 

【その他の落とし穴】

・トライアルキットでの失敗例

健康食品や化粧品などで、新規お客様の獲得手段としてよく使われる初回トライアル価格。初めて購入するお客様のハードルを下げ、注文数はある程度獲得できた。しかし、一向に本商品の購入につながらない。トライアルキット販売のための集客には手間とコストを変えたものの、そのあとの引上げ、CRMに無頓着だった結果、せっかくトライアルを購入してくれたお客様とはそれっきりの関係に・・・

⇒低価格のトライアルキット販売をするならCRMによる引上げ施策は必須。オンラインCRMだけでなく、オフラインCRM(梱包時に引き上げにつながるチラシを入れる、DMを送るなど)も含め、検討されるといいと思います。

 

・多店舗展開での失敗例

ECサイトの多店舗展開は今や常識。楽天、Yahoo!Shoppingなどのモールにも出店し、売上拡大を目指すぞ!と息巻いたのはいいが、いざ出店してみると、注文管理や在庫管理はすべて別々。毎日別々の管理画面を開いては処理の繰り返しに悪戦苦闘。売上は確かに増えたけどバックオフィス業務がまったく回らない。人を増やせば対応できるかもしれないが、それではコストが見合わないとあえなくモールから撤退。せっかく売上が上がってきたのにもったいない・・・

⇒多店舗展開の際の注文管理や在庫管理ほど煩わしいものはありません。管理を一元化できる便利で低価格のツールがいくつも出ていますので、活用を検討しましょう。

 

・メーカー向け販売管理システムとの連携による失敗例

通常メーカーでは、卸問屋や小売店からロットで注文を受け付けます。販売管理システムに注文データを入力しないと出荷できないシステムになっています。ECでは個人からの注文を小ロット(場合によっては1点など)で受注しますが、基幹システムとしての販売管理は元のママ。結果、たった1つの注文でもすべて販売管理システムに登録する必要が出てきます。また、その販売管理システムがレガシーなシステムの場合、APIなどによる自動連携もできず、手動でチクチクデータ入力を行うことに。これ以上注文増えたら回らない!

⇒ECでの売り上げを既存の卸向け販売管理システムでやろうとすると必ず無理が出ます。どうしても1件ずつの受注登録が必要なら、EC注文データとの自動連携を。1件ずつでなくてもいいのなら、ECサイトを1件の得意先としてロットっぽく登録する方法もありです。

 

・組み合わせ商品の失敗例

立派なダイニングセット。ダイニングテーブル1台と椅子4脚。セットで●●万円なり。セット販売だけでなく、テーブルだけほしい人や椅子だけほしい人にも対応できるよう、単品でも販売可能。ある日、ダイニングセットの注文が入ります。倉庫に行ってみると・・・あれれ、椅子が3脚しかない!単品で椅子だけ購入したお客様に出荷してしまっていた。ダイニングセットとしては販売できなくなっていたのに、テーブルの在庫があったので売り切れにしていなかった。

⇒常にセットでしか販売しないと機会ロスが生まれます。しかし、セット用と単品用で在庫を分けて管理するのも大変です。テーブル、椅子それぞれの在庫を入れて、セットが売れた場合はそこから必要な数分在庫減、単品で売れてしまって最終的にセット販売できない数になったらセットは売り切れになるようなシステムもあります。

 

第3章:EC立ち上げで失敗しないためには

上記で紹介したものはあくまでも一例です。実際には細かなことまで含めると、かなり多くの失敗例や困った事案の相談をいただいています。これらの失敗が起こる要因として共通しているものは、第1章でも紹介したように、ECをネットの世界のモノとして捉え過ぎ、リアルなビジネス・店舗としての機能や仕組みに注意が回らなかったことです。

皆さんが「店舗」を出店しようと考える際には、当然下のようなことに気を付けますよね。

・立地条件
人通りの多い場所かどうか?自社の顧客になりそうな人が周囲に存在するか?

・販売員の確保
店頭で商品を販売する販売員も必要です。
社員か?バイトか?全部で何人必要か?その時の人件費は?

・商品受け渡し
大型商品であれば、購入いただいたお客様にどうやって商品をお届けするか?

・支払方法
現金以外の決済方法は必要か?

・在庫管理
店舗での陳列スペース・倉庫スペースの問題もあり、大量には
在庫を置いておけません。欠品による売上機会のロスや
過剰在庫によるリスクを考えた在庫管理の方法はどんなものか?
棚卸はどの頻度で実施するか?

 

ECでも全く同じことです。

・立地条件
自社サイトか?モールに出店するか?自社サイトは路面店と一緒です。
自力でお店に人を呼び込まねばいけません。
モールに出店するのはショッピングセンターに出店するようなものです。
ある程度の人通りは想定できますが、同業他社も多く出店している
可能性があるので、そこでの勝負に勝つための戦略を考えねばなりません。

・販売員
注文を受けてから出荷に回すまでの作業やお客様からの問い合わせに
対応するためのCS(カスタマサポート)など。対面ではない分、
よりきめ細かな対応が求められるケースも多くあります。など

 

第4章:ECで問題が起こる前の対策法

ECを店舗の一形態として捉え、必要な業務フローを洗い出し、その業務をスムーズに行うための準備なしではECは回りません。しかし、実際にサイトを公開し、注文が入り始めたところで問題に気づいてしまうことが多いのも事実です。実施前にできるだけ発生しうる問題を把握し、適切な手立てを打っておければ大きな問題にはなりません。実施前に問題を把握しておくための方法としておススメするのは、お客様側、自側両面から、業務の流れを整理し、フロー図を作成しておくことです。そのフロー図に沿って、注文発生から出荷、集金および基幹システムへの売上登録までの業務のどこかで無理が生じないかを確認することです。また、問題は多くの場合、イレギュラーなケースで発生します。例えば通常ネットで受けているのに、お客様が電話で注文してきた場合や、出荷後にキャンセルが入った場合、カード決済で与信が通らなかったなど、通常の流れと異なる流れが発生しやすいところを想定し、そこへの対応を考えておくといいでしょう。

 

まとめ

EC運営もリアル店舗運営と同じ。商売をするということはそれにまつわる膨大な業務が発生します。その業務を遂行するイメージをなるべく鮮明に持つことで、あとから発生する問題のいくつかは解消できるはずです。特に注意しないといけないのはイレギュラーは発生するという認識を持ち、どんなイレギュラーが発生しそうかを考えて業務設計をしていきましょう。

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