ビジネスに成果をもたらすアクセス解析:ヒントを見つける3つの事例

アクセス解析がもてはやされて久しいですが、本当の意味で活用し、成果を上げている企業はどれほどあるでしょうか?中には上司への報告資料として、依然としてUU数とPV数の推移だけを追っているだけだったり、単に数字を見るだけでその後の具体的な改善アクションに至っていないという企業は非常に多いと思います。

今回はアクセス解析をビジネスにつなげ、成果を出すための考え方のヒントになる3つの事例をご紹介します。アクセス解析はサイト改善に活用するという考え方もありますが(むしろそちらが多い)、今回ご紹介する事例はすべて、ネット広告との連動を強く意識した活用方法です。ネット広告予算の最適化やネット広告経由のコンバージョン数の拡大を目指す方は是非ご一読ください。

1:アクセス解析で効果を上げた3つの事例

まずはアクセス解析の具体的な活用事例をご紹介します。

A社:健康食品/化粧品通販会社のケース

背景:健康食品や化粧品などの通販では、多くの企業が「初回限定半額」「トライアル価格」など、新規顧客の獲得ハードルを下げ、リピーターからロイヤルカスタマーを育成していくことで収益を上げることを狙っています。つまり、LTV(ライフタイムバリュー)観点でのマーケティングが必要になるわけです。A社の新規顧客獲得ルートは主に「リスティング広告」「アフィリエイト広告」など、ネット広告が中心。ネット広告の媒体が提供しているコンバージョンカウントでは、広告自体の費用対効果は確認できますが、その後のLTV(リピート率・リピート回数・リードタイム)などは当然出てきません。

施策:そこで、アクセス解析ツールと、ECサイトでの注文データを組み合わせ、流入経路別のLTVを割り出し、よりLTVが高い施策へ予算を投下するというオペレーションを行いました。

結果:無駄な広告投資が減り、より効果の高い広告へ予算をシフトしていくことで、全体の売上拡大に貢献することとなります。

B社:専門学校のケース

背景:少子高齢化により、入学志願者の絶対数が減少、さらに大学全入時代に突入する中で、専門学校の経営は今まで以上に厳しさを増しています。そうした環境下でこそ、アクセス解析をビジネスに活用する視点が必要。

施策:このケースでは、学校見学やオープンキャンパスへの参加、出願、入学に至るネットでのコンバージョン後のリアルなアクションをアクセス解析データと紐づけることで、よりビジネス成果に近いアクションをしているユーザーの流入経路を特定し、その経路をいかに太くしていくかという取り組みを行いました。ここまでは上記の健康食品のA社と近いです。ただ、もう少し詳しく見てみると、ネットコンバージョン後のアクションがないユーザーの中には、かなりの割合で高校3年生以外が含まれており(高校1~2年や場合によっては中学生なども)、まずは翌年4月の入学志願者を集めるという観点で、コンバージョンユーザーに占める高校3年生の割合の高い広告手法がどれかを可視化していきます。

結果:時期的に高校3年生が積極的に進路選びに動くシーズンと、そうでない時期があり、広告予算の配分を高3積極活動期はそこに寄せていき、その時期を過ぎると来年の入学志願者向けに2年生狙いのターゲティングで広告を運用。今年度刈取り顧客と来年度見込顧客を時期を分けてうまくキャッチすることに成功しました。

C社:BtoB IT企業のケース

背景:そもそもBtoB向けのIT製品というと、高額でユーザー側の検討期間も非常に長いです。その割に検索数は少なく、クリック数も少ない。結果、リスティング広告ではコンバージョンにつながるKWの特定が非常に困難です。通常の運用であればコンバージョンしないKWは入札を下げたり広告配信自体を停止したりするのですが、一律でそれを行うと、ほぼすべてのKWを止めないといけなくなるようなアカウントもあります。

施策:そこで行ったのが、アクセス解析ツールと連動させ、広告クリック後のユーザーのページ遷移(PV)数や滞在時間を基にしたKWの重みづけです。直帰ユーザーよりもサイト内を遷移し情報収集しているユーザー、10秒でサイトを離れるユーザーよりも数分かけてコンテンツをじっくり見ているユーザーのほうが、検討確度が高そうなのは想像に難くないと思います。

結果:アクセス解析によってこれらの数値をKWごとに導き出し、その結果を基に入札を強めたり、KW追加をしていきました。結果、コンバージョン数の拡大・コンバージョンレートの向上につながり、質の高い見込顧客を獲得することに成功しています。

2:アクセス解析データを活用するための考え方

上記の3つの事例に共通しているアクセス解析を活用する際の考え方とはなんでしょうか。それは、「ビジネスゴール」の観点でKPIを正しく設定し、そのKPI達成に向かって「具体的にアクションしていくための指標」をきちんと把握しているということです。アクセス解析ツールを導入することで様々なデータの取得・可視化が実現できます。しかし、実際にはいろんなデータが取れすぎて、どの数字をどう活用するかが明確になっていないケースが非常に多いのです。

どんな会社でも売上を拡大していくためのビジネスモデル・ビジネスフローが存在します。通常は新規見込顧客の獲得があり、その見込顧客を購入してくれる本当の顧客に育成するプロセスがあり、LTVを高めるためのフォロー施策があり、その中でクロスセル、アップセルを行っています。販売している商材や提供しているサービスによって違いはありますが、ビジネスフローそのものは確実に存在しているのです。そのビジネスモデル・ビジネスフローにおけるネット広告の役割、Webサイトの役割、その後の営業場面を想定すれば、おのずと見るべき指標=KPIが決まります。つまり、あくまでも主軸はビジネスで、その中でアクセス解析を活用するという順番で考えることが必要なのです。アクセス解析は導入しているけど、実際にうまく活用できていないというケースのほとんどがビジネスモデル・ビジネスフローにおけるネットのKPI設定が甘いです。

3:アクセス解析を活用するための準備

アクセス解析をビジネスに活用するために必ず、かつ最初に行わないといけないのが前述のKPI設計です。ネット広告やWebサイトでユーザーにどんなアクションをしてもらったら自社のビジネスゴールに近づくのか、それを定義することから始めます。先ほどの事例と重なる部分もありますが、いくつか例を挙げると

単品リピート通販サイト

新規トライアル購入ユーザーの獲得(数・率・コストなど)

トライアル購入から本製品・定期購入への引上げ(リードタイム・引上率)

ターゲット属性が明確な学校などのサービス

  • 新規資料請求者の獲得(数・率・コストなど)
  • ターゲット属性の含有率(総資料請求者に占めるターゲットユーザーの割合)
  • 学校見学など、リアルなアクションデータとの連携

そもそもコンバージョン数が少ない業態

  • 滞在時間やページ遷移数
  • その後の商談化率など、リアルなアクションデータとの連携

リアルサービスのカスタマサポート・会員向けメディア的な位置づけのサイト

  • 新規ユーザーとリピートユーザーの比率
  • サイト定着率(最低月1回以上来訪するユーザーの割合など)

音楽・映像ソフトの販売サイト

  • 試聴回数と試聴後の購入率(試聴と購入の相関分析)
  • 複数アイテム同時購入者の購入傾向(J-PopとK-Popは同時に買わない?などレコメンドに活用)
  • ロイヤルカスタマーのサイト回遊状況(ロイヤル化するためのトリガーとなるコンテンツやアクションを把握する)

他にもサイトごと、ビジネスモデルやビジネスフローごとに最適なKPIは必ず存在しますので、まずはそれを明確にしていくことが重要です。また、上記の例のうちのいくつかは、アクセス解析ツールで取得できるデータ以外を紐づけて分析するものも含まれます。わかりやすい例では、ECサイトの定期購入機能を使って注文データを作成する場合、アクセス解析ツールには全くデータが上がってきません(ECカートでシステム的に自動で注文データを作成します)。そのようなアクセス解析以外のデータを準備することも必要です。よく利用されるのはオフラインデータと呼ばれるもので、「注文データ」「リアルな来店データ」「商談進捗データ」などになります。

4:アクセス解析ツールの選定

ビジネスゴールを見据えたうえで、アクセス解析で注視すべきデータを決めたら、次はツールの選定です。アクセス解析ツールには大きく分けて「Webビーコン型」「ログ分析型」「パケットキャプチャ型」があります。それぞれの代表的なツールとメリットデメリットの比較を以下に記載します(各ツールの分類は基本の場合です。ツールによっては複数のパターンで利用できるものがあります)

どのアクセス解析ツールを導入(選定)するかは、コストや導入工数・難易度にもよりますが、少なくとも最初に決めたKPIをきちんと取得できるツールであるかどうかを確認する必要があります。また、アウトプットのわかりやすさも非常に重要です。アウトプットがわかりにくかったり、分析対象データを加工する手間がかかるアクセス解析ツールを導入してしまうと、導入後の運用ハードルが上がり、結局は活用しきれないというケースがあります。

また、取得すべき項目・内容によってはカスタマイズすれば取得できるが、素の状態では取得できないという場合も多々あります。カスタマイズ内容によっては高い設計・設定スキルが必要なものもありますので、そうした場合は専門家のサポートが必須になります。

5:アクセス解析ツールの導入

ここでは一般的なアクセス解析ツール導入時のフローと主な関係者を表記します。導入する際にどんなタイミングでどんな役割のスタッフに業務が発生するか、事前にイメージしておくことで、スムーズな進行が可能です。今回はWebビーコン型アクセス解析ツールを導入する場合の手順をご紹介します。

まとめ

アクセス解析ツールを導入し、ビジネスで活用するイメージを持っていただけたでしょうか。アクセス解析はあくまでもツールです。しかし、意思決定の指針になることは間違いありません。スピーディにビジネスを展開し、PDCAサイクルを構築していくには、

  1. ビジネスモデルやビジネスフローにおけるネットの役割定義
  2. 取得したいデータ項目の確定
  3. ツール選定
  4. 要件定義
  5. 導入・実装
  6. テスト・デバッグ

というプロセスが必要です。しかし、導入して満足することはできません。導入後にデータを見ながら、当初の狙いが実現できているか、仮説が正しかったか、どこを改善すればより全体に好影響を及ぼすかといった改善のための施策に落とし、実行していくことが重要です。